
このページは、まだ『愛されなくても別に』を読んでいないあなたのためのレビューです。当サイトの約束として、物語の核心には絶対に触れません。ここで判断してほしいのはただひとつ、「これは刺さる一冊かどうか」。それだけ確かめて、安心して帰ってください。
Contents
基本情報
| 著者 | 武田綾乃(『響け!ユーフォニアム』シリーズの作者) |
| 出版社 | 講談社(講談社文庫) |
| 刊行 | 2020年(「小説現代」2020年8月号一挙掲載) |
| 受賞 | 第42回吉川英治文学新人賞(2021年) |
| 映像化 | 2025年7月に実写映画公開(主演・南沙良) |
| こんな小説 | 学費と家事と母の機嫌をひとりで背負う大学生が、「愛」という言葉の呪いから降りるまでの物語 |
あらすじ(ネタバレなし)
宮田陽彩(みやた・ひいろ)、大学2年生。週6日、月200時間のコンビニバイト。稼いだ金は自分で払うと決めた学費と、家に入れる月8万円に消えていきます。家事も全部、陽彩の仕事。浪費家の母は娘の作った朝食を残し、スマホゲームのガチャ自慢をして、化粧を終えると毎朝の決まり文句を口にします——「愛してるよ、陽彩」。
陽彩はそれを疑ったことがありません。母に愛されている。だから大丈夫。そう思って、すり減っていく毎日を回し続けています。
そのバイト先に、同じ大学・同じ学年の江永雅(えなが・みやび)が入ってきます。金髪で、無口で、よくない噂のある女。関わらないほうがいい——そう判断したはずの陽彩の生活が、彼女の登場で少しずつ動き始めます。ここから先は、ぜひ本文で。
読みどころ
①「愛してる」が、いちばん怖い言葉になる
この小説の母親は、わかりやすい悪役の顔をしていません。機嫌のいいときは娘にガチャの結果を見せて笑い、毎朝「愛してるよ」と言う。けれど読み進めるうちに、その言葉が出るたびに読者の胃が重くなっていきます。愛という言葉が、関係をつなぎとめる鎖として機能してしまう瞬間を、この小説は正面から書きます。読み終えたあと、誰かの「愛してる」を聞く耳が少し変わるはずです。
②感情ではなく、数字で書かれる「しんどさ」
深夜帯の時給1100円、6時間で6600円。家に入れる月8万円。この小説は主人公の苦しさを、泣き言ではなく金額と時間数で積み上げていきます。だからこそ刺さる。生活のしんどさは気持ちの問題ではなく、算数の問題でもあるからです。読んでいて「これは誰かの実話では」と思わされる解像度です。
③江永雅という「家の外」
陽彩の世界は、母を中心に閉じています。その閉じた円の外から来るのが江永です。彼女が何者なのか、なぜ噂されるのかはここでは書きません。ただ、陽彩と江永の関係は、恋愛や友情という既製の言葉できれいに回収されない形で進みます。その「名前のつかなさ」こそ、この小説のいちばん新しいところだと私は思います。
こんな人に読んでほしい
- 親との関係を「うちは普通……だよね?」と確かめたくなったことがある人
- 頑張っているのに、生活がすり減っていく感覚のある人
- 『コンビニ人間』が刺さった人(同じ「生きづらさ」の系譜です。当サイトのレビューはこちら)
ひとつだけ注意を。家庭内の支配や搾取の描写はかなり生々しく、読むのがしんどい場面もあります。いままさに家族関係で消耗している人は、体調のいい日に手に取ることをおすすめします。それでも、この小説は読んだ人を追い詰めるためではなく、降りていいと伝えるために書かれています。
読み方の提案
文庫一冊、会話が多く読みやすい文体なので、夜にじっくり一気読みできます。ただし途中で何度か本を閉じて息をつきたくなるはずなので、時間に余裕のある日がいいでしょう。
活字より耳派なら、オーディオブック版(Audible)も配信されています。朗読は鷹雄葉月さん。陽彩の淡々としたモノローグと相性のいい、温度を抑えた読みです。
おわりに
『愛されなくても別に』は、タイトルの意味が読む前と読んだ後でまったく変わる小説です。読む前は投げやりに見えるこの一言が、最後のページでは別の顔をしています。その変化を、ぜひ自分の目で確かめてください。
読み終えた方へ:あのラストの「もう家族やめる」をどう読むか、答え合わせをしませんか。→ 『愛されなくても別に』考察|ラスト「もう家族やめる」の意味と江永雅を解説【ネタバレあり】


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